『ナツヤスミ語辞典』

『ナツヤスミ語辞典』＠新国立劇場小劇場
2011年8月7日14時開演

脚本：成井豊
演出：中屋敷法仁（柿喰う客）

出演：
カブト……熊川ふみ（範宙遊泳）
ヤンマ……深谷由梨香（柿喰う客）
アゲハ……原田樹里
クサナギ……多田直人
ウラシマ……鍜治本大樹
ナナコ……渡邊安理
ムロマチ……コロ（柿喰う客）
アヅチ……大村わたる（柿喰う客）
モモヤマ……永島敬三（柿喰う客）
ミドリ先生……川田希
アオタ先生……村上誠基（柿喰う客）
カニタニ……七味まゆ味（柿喰う客）
サルサワ……井上麻美子
ウスイケ……林貴子
郵便屋、他……森下亮（クロムモリブデン）
アゲハの母、他……右手愛美（柿喰う客）

おもしろかった、想像以上に期待以上におもしろかった。

『ナツヤスミ語辞典』は1991年の再演をビデオで。
2003年の再々演（ダブルキャスト）を劇場で。

この作品、あまり好きではなかった。
それが完全に覆ったなぁ。

演出が変わったせいなのか、私が歳を取ったせいなのかはわからない。
でも、思ってもいなかったシーンや台詞にやられた。


舞台上のセットや小道具を作り込むキャラメルボックス。
今回のアナザーフェイスでは、階段状になった舞台があるだけ。
その時点で、どんな芝居になるのか期待が募る。

冒頭、いきなりラップ調で始まるシーン。
たくさんの女子高生たち。
キモイ女子高生も数名・・・（笑）
カジモンがあまりに似合わなくて、視線が釘付け。
あの動きが許せないっ、いやだっ。

夏休みの計画。
キャラメルでは、毎度計画表が出てきてたわけだけど。
今回は、台詞のみ。
視覚に頼れない分、台詞でいかにインパクトを残せるかが大事になる。

センターで誰かがしゃべってるときの、周囲の動き。
これがまたおもしろかった。
音楽にノリながら、一斉にリアクション取る。

カブトをやった熊川ふみ。
彼女、藤岡さんに雰囲気がとても似てる。
2003年にやった『ナツ語』では藤岡さんがカブトだった。
ちょっとそれに引きずられた部分があったかも。

カニタニをやった七味まゆ味。
目が離せないんだよなぁ、おもしろくて。
やな奴って印象が強かったカニタニなんだけど、彼女のカニタニは好きだわ。

ムロマチのコロ。
佇まいにすでに惹かれる。
『ナツヤスミ語辞典』初演ではムロマチは津田匠子。
おそらく津田さんに近いんだろうなぁ。
それくらい魅力的な女優さんだった。

クサナギは多田直人。
あんまりイメージわかなかったんだけど、ほほぅ。
もうちょっと“癖”が抜けるといい演技になるだろうなぁ。
意外とやるじゃん、という印象。

ウラシマがカジモン、ナナコが安理ちゃん。
カジモンかぁ～、なんか素直なウラシマだなぁ。
ナナコに何も考えずに嫁のプレゼント選びを頼んじゃう辺りは納得。
でも、後半にかけてのムロマチとのやりとりは物足りない。
安理ちゃんのナナコは、ざらっとする胸の痛みを感じた。
明るさに隠れた切なさが、ね。

竜宮城の乙姫さま、玉手箱、の下り。
あのシーンって、さらっと流してた。
ナツヤスミを終わらせるアイテムとして「玉手箱」を登場させるための伏線。
自分の中ではそんな扱いだったのだけど、今回は泣けたなぁ。

ムロマチが本当にウラシマのことを信じてた。
周囲の雑音や、カブトのことを気にして、何も言わなかっただけ。
でもやはり素直にはなれない、あんな死に方をされたら。
それが、すとんと腑に落ちた。
何の矛盾を感じることなく納得できた。

ヤンマが、「泳ぎたくない！」と叫ぶシーン。
「逃げない」「戦う」と必死に立ち向かうシーン。

「みんな我慢してきた。なんであなたは我慢できないの。」

あの台詞が、いまだからこそ痛い。
自分は我慢した、だから、あなたも我慢しなさい。
これが会社での話だったらパワハラだよなぁ。
でも、大人が子どもに対して要求することは当たり前。
そもそも、我慢させることが当たり前の生活をさせてるんだよなぁ。

我慢することに、どんな意味があるんだろう。
子どもたちに我慢を強要することが、彼らにとってどんな財産になるのかな。
その経験が本当に彼らを強くするんだろうか。
それが本当に“正しいこと”なんだろうか。

クサナギが最後、手紙を破り捨てるシーン。
いままでは「あーぁ、どうすんだよ、これから」って思ってた。
それが、「そーだよね！諦めちゃだめだよね！」と思えた。
これは私の変化なんだろうか？（笑）

スピード感、パワー、テンポの良さ。
おもしろかった。

柿喰う客、本公演も行くぞっ。